本番前のサウンドチェック、どんなドラムパターンを叩きますか?
本番3時間前
先日、出演するライブがあり、夕方から都内のライブハウスに向かった。
梅雨明けはまだ先の、重たく湿った空気とベタつく汗に辟易しながらライブハウスのドアを押して中に入ると、キンと冷えた空気の中ですでに先に入っていたバンドがセッティング中だった。PAの人がドラムセットにマイクを立てたり、ケーブルをさばいたり、これからサウンドチェックが始まるところだ。
一応、僕はドラマーなので、やはり一番先にステージのドラムセットに目が行く。
ステージにはCanopusのドラムセットが据えられていた。
タムやバスドラムの胴は何の素材かわからない。なにかレトロなブルーっぽい、ラメっぽい、そんな色のフィニッシュで、ヴィンテージ感を演出しようとしているのだが、それ以前にちょっと経年劣化が目立つ。
タムタムは深胴ではない、浅めのものだ。バスドラの口径は22だろう。
ジョン・ボーナム
それにしても、小ぢんまり古臭いドラムだな、とか考えているうちに、対バンのサウンドチェックが始まった。
ほかのバンドの連中はフロアにいて、ステージを見守っている。まあ、見守らないまでも、その音は否応なく耳に入ってくるので、そこにいる人は全員サウンドチェックの音を聴いている。
僕もステージ上に顔を向け、セットの奥に座るドラマーに注目する。
サウンドチェックは、だいたいドラムから始まる。
「では、ドラムさん、キックからお願いしまーす」というPAの声がかかり、それに応えて、ドン、ドン、ドン…
「スネアくださーい」タン、タン、タタタタツタタタ…
「タムを上から」タン、トン、ドン…タカタカドコドコドン
「じゃ、全体でお願いしまーす!」
「全体で」というのは、ドラムセットの全てを使って、リズムを叩く、ということなのだが、この「全体でお願いしまーす」辺りから、ドラマーの個性や特性、クセ、あるいは主張したい何かが出てくる。
ドン、タン、ドドタン、ドン、タン、ドドタン……
みなさんだいたい、シンプルな8ビートを軽めに叩き始める。最初の4小節は誰でもフツーである。フツーの8ビートあたり。
ドン、タン、ドドタン、ドン、タン、ドドタン……
いよいよここでフィルインか。
…ズダダダドドドドドゥルトトドドドドダルトゥダルトゥダルトゥストゥルトタタタタダダダララララルゥルゥルゥバシャシャシャザザーン!!
華麗な技!ジョン・ボーナムばりの、スネア→タムタム→フロアタム→バスドラムでやるやつ(なんという技かわらない)である。
…ズンタタドタドドズタドドタタズンタタドタズンズンタタッタドドンドドコドコ…
華麗な技術も持ち合わせず、ジョン・ボーナムも通っていない、パンクドラマーの僕などは、目の前でそんなプレイを見せつけられると「お、おぉぉ」と感心しきりである。
パラディドルだとか、なんとかかんとかを駆使した、なんというものかも知らないそういうスキルは、まったく自分には遠いもので、「練習しなきゃなぁ」とつくづく思う。こんな技が身につけば、たぶん、ドラムの幅も広がるだろう。
サウンドチェックのセッティング
さて、そろそろ僕のサウンドチェックが始まる。
まずは、ドラムセットを自分が叩きやすいようにセッティングする。
持ち込みドラムがない限り、それぞれのバンドが同じドラムセットを共有して使うことになるので、著しく個性的なセッティングは避けた方がいい。
自分の所有するドラムフルセットを、ライブハウスに持ち込めるような幸せなアマチュアドラマーは、そうはいないだろう。僕はいつもスネアとキックペダルとスティックだけ持参している。
なので、アマチュアドラマーは、そこにどんなドラムセットが置いてあっても、文句を言わずに叩くしかない。逆に言えば、ドラマーなら、どんなドラムセットでも叩けなければいけない、ということだ。
僕の前にサウンドチェックしてたドラマーは、1タムのセットだった。僕は2タム派なので、ステージの袖に転がっていたタムタムを見つけ出してくっつけた。
スネアのスタンド、タムタム・フロアタムの位置、スローンの高さ、ハイハットとシンバルのポジションなどを決める。
クランプ類はほどほどに締めよう。あとで使う人がいる。
ドラムのセッティングが終わったら、PAさんに伝え、マイクを立ててもらう。この辺はすべてPAさんに任せることにする。勝手にいじくると叱られてしまう。
このあと、どうせまた別のドラマーがセッティングを動かしてしまうのだが、それは仕方がないとして、まあ、今回のドラムセットに慣れる、という意味で、しっかりセッティングする。
サウンドチェックのドラムパターン
いよいよサウンドチェックの開始である。
すべてPAさんからの指示におとなしく従ったほうが良い。余計な音は出さないように。
スネアやタムタムの単体の音を出すときは、基本的には1ショットずつ間隔をあけて叩いている。ドラムの鳴りや残響音をチェックする必要があるだろう。
僕の場合、1秒間に1ショットずつ叩いている。強さは、本番の時に叩くショットと同じくらい、を意識する。本番のためのサウンドチェックである。
例の「全体でお願いしまーす」の時は、ホントに簡単なことしかやらない。というより、やれない。
いつもやるのは、ゆったりした8ビートだ。同じパターンで、リズムを刻む右手を、2小節ごとに、ハイハット→ライドシンバル→フロアタム…と変えていき、切れ目には、ごく簡単な、タムタムとクラッシュシンバルを叩くオカズを入れる。
ドン、タン、ドン、タン、ドン、タン、タカタカトコトコジャーン…
みたいな、ごくごくごくカンタンなパターンだ。
個人的には、ジョン・ボーナムやニール・パートよりは、こういうど素人なパターンの方が、きっとPAさんにとってもいいのではないか、と思ってるのだが、どうだろうか?
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