メルセデスS124:シフトリンケージブッシュを交換(超タイヘン)

 シフトがバック(R)に入らない?

S124でいつものスーパーへ買い物に行った。空いている駐車スペースを見つけ、バックで駐めようとセレクターレバーをRに入れる。
…あら?動かない。バックランプから電源を取ったバックカメラも作動していない。
もう一度、PからRに入れ直してみたら車体が動き出した。
スーパーから帰ってきてウチの車庫に入れるときも同じ症状が出た。一発でシフトがRに入らない。何度かシフトをRとPで往復させるとやっとバックに入る。

うーん…原因は何か。

シフトのリンケージブッシュがイカレているのではないか。そもそも1年ほど前にこのクルマを入手したときから、セレクターレバーが節度なくヌルヌル動く感じがしていた。機会があればシフトリンケージブッシュを交換しようと思って、ブッシュだけは買っておいた。

後日、エンジンをかけようとすると、キーがONの位置から先に回らない。セルモーターが回らずエンジンがかけられない。
もちろんセレクターレバーはPの位置だったのだが、先日のシフト不良の問題があったのでピンときた。セレクターレバーからトランスミッションをつなぐリンケージが不正のため、シフトの位置はPであってもクルマはPだと認識していないのだろう。だからエンジンはかからなかった。

シフトリンケージブッシュを交換

もうノンビリしてはいられない。すぐに修理しなければマズい。部品はあるので自分でシフトリンケージブッシュを交換することを決意した。


部品と言っても、これだけである。直径2cmもない樹脂のブッシュだ。1個400円くらい。

人間で言えば腕の関節の軟骨みたいなものだ。軟骨がイカれれば腕はちゃんと動かせなくなる。これを、セレクターレバーとオートマチックトランスミッションをつなぐリンケージの2か所の関節部分にはめ込むのである。

S124の前部をジャッキで上げ、ウマを立ててクルマの下にもぐる。まずはシフトリンケージの確認からだ。
セレクターレバーのすぐ下に、ひとつめの関節がある。
狭くて見づらいが、ここに樹脂のブッシュがハマっているはずだ。なのに何もない。隙間があいている。


こちらは後部の関節。シフトロッドの後端とオートマチックトランスミッションをつなぐ部分である。ブッシュは一部残っているようだが劣化が著しい。


ギアシフトの伝達経路がこんな状態では、正常な動作など望めない。今までよく走れていたな、という感じだ。

シフトリンケージを取りはずす

セレクターレバー下のリンクから取りはずそう。


シフトレバーから伸びるシャフトとシフトロッドはここでつながる。矢印の10mmのボルト・ナットをゆるめて通しボルトを引き抜く。ワッシャがあるので紛失しないよう注意。 


ボルトを引き抜いたら、手前にこじればセレクターレバーからのシャフトとシフトロッドが切り離される。

続いて、シフトロッド後部の接続をはずす。
はずれ止めクリップを矢印方向に引き抜くだけだ。


車体から抜き取ったシフトリンケージ。
組み込み時に位置や向きを間違えないよう写真を撮っておいた。


シフト側リンクのブッシュはすっかりなくなっていた。


後部リンクの劣化したブッシュ。新車時から30年交換されていなかったのかもしれない。


最大の難関。リンクにブッシュを取りつける

次ははずしたシフト側リンクにブッシュを取りつける。
ブッシュの取りつけがかなり難しいということは有名なようで、ネットで自作SSTを使っている情報を見つけた。なので自分でもブッシュの取りつけ用に部品を用意した。


これでブッシュを圧入しようとしたのだが…


ボルトの頭がブッシュにめり込んだり均等に圧入できなかったりで全くうまくいかず、あれやこれや試してみたが、2時間後にはあきらめた。

結局、ラジオペンチで力任せにグリグリ押し込む方法でなんとかブッシュをリンクの穴にはめることができた。


サラリとブッシュをはめることができたと書いたが、実は手が痛くなるまで格闘した結果である。
このブッシュ、つまんでみると硬そうだが力を加えると極めて柔軟だ。したがって、単純に垂直方向に押し込んでも自らがつぶれるだけでリンクの穴に入っていかない。先の細いラジオペンチなどで、一部分ずつ、思い切り強くはさみこんでいくのがいいようだ。こっちが入ればあちらがはずれる、というふうにとにかく難しくて、チカラが必要で、時間のかかる作業であった。

クリップをはめて完了だ。ブッシュひとつはめ込むだけで3時間もかかった…


続いて、トランスミッション側のリンクにブッシュをはめ込む。
これはもう、考えただけでもハードなミッションだ。まず、作業スペースが狭く、深い。リンクは車体とプロペラシャフトにはさまれた深い溝にある。手は届かないから長いラジオペンチだけで作業しなければならない。ひとつめのブッシュで3時間かかったのに、果たしてこんな条件の悪い場所でブッシュがはめ込めるか。全くできる気がしなかった。
見通しが立たないままクルマの下にもぐって作業を開始する。この小さな樹脂の部品がはめられなければ、クルマは動かない。意地でもやらなければならぬ。

ブッシュをペンチでつまんで、ミッションから伸びるリンクの穴に押し込み、両側からはさみこむ。


ブッシュが少しでもリンクの穴に食い込んだら、あとはひたすら力の限りペンチのハンドルを握ってはさみこむ。しかし入らない。場所を変えてまたはさむ。はさむ場所が悪いとブッシュはポンとハズレて無情にも落ちてくる。何度も何度も落ちる。ああ、これはいつまで続くのか。このまま愛車は不動となるのか。とうとうクルマを壊してしまったのか。

泣きそうになりながら格闘すること1時間余り、とうとうブッシュが入った…プロの方はどんな方法でやっているのだろうか。


朝から始めた作業はもうとっくに昼を過ぎていた。これからシフトリンケージを車体に組み付けなければならない。
シフトリンケージを、向きに注意してもとの位置に差し込んで、セレクターレバー下から先に組み付けた。
さあ、あとはトランスミッション側をつなぐだけだ。

最後の難関にぶつかった。
先ほど苦労してブッシュをはめたトランスミッションのリンクと車体とのクリアランスが狭すぎて、90度に曲がったシフトロッドの先端がはめ込めないのだ。少なくともブッシュの厚みくらいの幅が足りない。手を突っ込んでトランスミッションのリンクを脇に押しやってみたが全く遊びがなく、はめ込むだけの幅が作れなかった。
もう力まかせにやるしかない。マイナスドライバーでガリガリこじってトランスミッションのリンクを脇に押しながら、シフトロッドの先をゴリゴリと強引に割り込ませる。
だめだ。硬い。広がらない。何度やっても広がらない。手が痛い。腕が引きつりそうだ。
また泣きそうになる。こんなのどう考えたってできるわけない。他にやり方があるのか?誰か教えてほしい。
何度も何度もやっているうちにほんの少しスキマが広がってきたようだ。というかトランスミッションのリンクが曲がってきてしまったのかもしれない。そして渾身の力でドライバーをぐいっとしたら、バキン!と鈍い音がしてシフトロッドの先がリンクの穴に斜めに入り込んだ。

シフトリンケージが取り付けられたとき、真冬の空はもう薄暗くなっていた。

✴最後の最後、クリップをリンケージの端に差し込もうとして、うっかり車体のフレームのスキマに落としてしまい救出不能になってしまった。あわててクリップを入手し、後日取り付けることになった。

シフトフィールが劇的に改善

苦労の甲斐があって、という表現はあまりにありきたりで遺憾ではあるが、S124のシフトフィールはまさに劇的に改善された。


シフトポジションPから1まで「コクン、コクン」と絶妙な抵抗感を伴ってセレクタレバーが動く。ああ、これが124本来のシフトフィールだったんだ。以前乗っていたW208のシフトが「ガチン、ガチン」という安っぽい感じで、シフトチェンジがつまらなかったことを思い出す。124のシフト機構は単純な機械式なのに、シフトフィールはしっとりとして上質である。
たった2個の小さなブッシュを取り換えるだけで(作業はタイへンだったが)満足感を十分に得られる、有益な整備であった。

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