パンクスがパラディドルを始めた理由

ベテランPunkドラマーのスランプ

ドラムを始めたのは高校2年の夏だっただろうか。クラスの友達からバンドに誘われて、初めてドラムセットに触った。クラッシュとジャムのカバーを、素人高校生3人がせーので始める。出たとこ勝負、とりあえず曲が演奏できればよかった。

大学ではすぐにオリジナル曲をやり始めた。もうライブを頻繁にやっていたので、考えていたのは、かっこいいドラムパターンのことばかりだった。

何十年もが経過した。
数年のブランクはあったものの、ドラマーとしてのキャリアはそれなりに積んできて、自分なりに素人としてはまあまあなレベルまで来たかな、と思っていた。

ところがここ数年、ドラムを叩いてる最中に、あれれ…とあせる場面が増えてきた。
例えば、フィルインでもたつく。速い曲はもちろんだが、スローな曲でもフィルイン手前から構えてしまい、うまく入っていけない。きっちりしなきゃ!と力むと逆効果になる。それでフィルインの前になると意識が先行して体がこわばりリズムはガタガタになる。リラックスしようと意識すればするほど安定しない。
なんでもない8ビートなどでも気をはっていないとスピードに乗り遅れる。というか、後ろ後ろにずれていってしまう気がして、気持ちよく叩けない。

前はそんなことはなかったのに…加齢のせいか?と思いたいのだが、今まで普通にできていたことができなくなり、さすがにこれはマズい、と焦る。
そもそも何が原因なのかがわからない。どうしたらいいかわからないまま、いろいろ試す…姿勢を変える、グリップを変える、座る位置を変える…。

しかし、根本的な解決には至らなかった。

基礎がない

現在に至るまで、何だかんだで何十年もドラムに関わってきた。白状するが、常々、心の奥に引け目を感じていたことがある。

「基礎を知らない」ということだ。

前述の通り、僕はただ我流のドラムを叩いてきただけで、生まれてこのかたドラムの基礎的な練習などは一切やったことがなかった。
対バンのドラムのヒトがリハーサルで「タララタタタタタ…」と、ドラム基礎の片鱗を覗かせるときがある。それを目にすると僕はいつも、内心「すごい…でもオレにはできない…」と劣等感に苛まれるのだが、「いや、Punkに基礎は必要ないよ」と、都合のいい言い訳をつけてごまかしていた。
本当は、ドラムを叩く以上、その曲がどんなジャンルであっても基礎的な技術は有用であって、さらに言えば、ドラムの基礎的な技術の習得は全てのドラマーに必要なのではないか、と薄々気づいていたのである。


そんな経緯で、僕はパラディドルの練習を始めた。ドラムの基礎イコールパラディドル、と思ったからだ。

やってみると、やっぱり全くできなかった。
ズブの素人と同じ。いや、我流の変なクセが邪魔をして、素人以下だった。焦る。RLRRLRLL…なんて難しいんだ。今までのドラムに対する自負心が見事に崩れ去った。

ドラムは、叩いてはいけない

パラディドルを始めて3ヶ月。こんな僕でも、少しだけわかったことがある。
ドラムの基礎とは、パラディドルとかルーディメンツを叩けることではない。ロールができることでもない。

ドラムは、叩いてはいけない。

これに尽きる。何だそれ、と思われるだろう。でもドラムは叩いてはいけない。

ドラムを演奏するということは、スティックを弾ませることである。いかにスティックをドラムヘッドの上で自由に弾ませるか。これがドラム基礎の全てだ。まあ、古くから散々言われていることである。
散々聞いてきたはずだけれども、僕は今回、パラディドルの練習をやってみて初めて、ああそうか!と実感した。
ポン、とスティックが跳ね返ってくると、あ、この感じ!というのがわかってきた。
スティックが自由に弾んでいると、ゆっくりしたリズムが正確になる。速いテンポで打てるようになる。片手でダブルができるようになる。力が要らなくなる。そしてパラディドルができるようになる…はずである。

僕は長年、激しくドラムを叩いていた。力を込めて、スティックをドラムヘッドに押し付けるように叩き込んでいた。当然、スティックの自由に弾む運動が妨げられる。安定はしないし速く叩けないし疲れる。まったく基礎ができていなかった。
最近のもたつきの原因は、スティックが弾んでいなかったからだ。若いうちは筋力や瞬発力でどうにかなっていたのだろう。加齢とともにごまかしが効かなくなり、不調となって現れたのに違いない。

スランプに陥ったドラマーにも、ほんの少し光明が見えてきている。
ドラムは叩かないようにしよう。スティックを弾ませよう。
ドラムセットに座って実戦に活用するのが楽しみだ。今までやったことのない、なにか新しいパターンへの応用もできそうな予感がする。

ドラムのキャリア40年。ああ、最初から基礎練習しとけばよかったなあ…と後悔している今日この頃である。

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